平成18年度版中学校国語教科書の古典教材

(2007.10.01作成,2007.10.29修正)
●平成18(2006)年度版の教科書が対象です。学校図書以外は,この年度からB5サイズになっています。
●各教科書の掲載順に掲げたので,時代その他が前後しています。○は古文,□は漢文,△は発展や資料です。
●まちがいは見つけ次第修正いたしますが,ご教示いただけたら幸いです。
●「黄鶴楼にて」は李白の「黄鶴楼にて孟浩然の広陵に之くを送る」,「元二の」は王維の「元二の安西に使ひするを送る」です。
●1〜7の★については,表の下でふれました。
●平成18年度北海道内の中学校教員を対象とした「十年経験者研修」の教科指導専門講座及び後期科目「国語科教育法」の資料として作成した表に,資料・発展を追加したものです。
 拙稿「中学校国語教科書における古典教材の選択と指導法について―『おくのほそ道』と他の詩歌の連環を中心に―」(『札幌国語研究』12,平18.8)では,これらや免許科目「日本文学史」で述べたことの一部をまとめました。
  
出版社 1年生 2年生 3年生
教育出版 ○川柳
○説話『沙石集』児の飴食ひたる事
□故事成語「矛盾」
○『竹取物語』冒頭,天人到来


△十二支,月の異名,慣用句・ことわざ,故事成語と名句・名言
△『百人一首』(全,折込)
○『平家物語』祇園精舎,那須与一★6,敦盛の最期★6
□『論語』
◎『枕草子』春は曙,月のいとあかきに
○『徒然草』冒頭,公世の二位のせうとに,仁和寺にある法師


△昔の「五十音」(「いろは歌★4」「たゐにの歌」「あめつち」)
△伝統芸能―能・狂言・落語―,『源氏物語』と紫式部
○『おくのほそ道』序章,平泉前半,立石寺(李白序★4,行春・行秋★3,田一枚★1
○三大集(柳陰★1
□漢詩「黄鶴楼にて」「春望★2


△十干と干支,伝統芸能―歌舞伎の世界―,中国名所案内
△古典名作冒頭集(『万葉集』一番歌,『竹取物語』,『伊勢物語』初段,『古今集』仮名序,『土佐日記』,『枕草子』,『源氏物語』,『方丈記』,『平家物語』,『徒然草』,以上折込)
△古典文学史年表(折込)
△文語文法活用表(折込)
東京書籍 ○いろは歌★4
○『竹取物語』冒頭,別れの予告
◎『枕草子』春は曙,月のいとあかきに
□「矛盾」他


△日本文学史 奈良時代・平安時代(『伊勢物語』九段冒頭,『源氏物語』冒頭,『土佐日記』冒頭,『梁塵秘抄』「まへまへ蝸牛」)
○『徒然草』冒頭,ある人弓矢取ることを習ふに,雪のおもしろく降りたりし朝★7
○『平家物語』祇園精舎,那須の与一★6
□『論語』


△日本文学史 鎌倉時代・室町時代 (『方丈記』冒頭,『宇治拾遺物語』木こり歌のこと,謡曲「高砂」末尾,お伽草子「浦島太郎」冒頭)
○三大集(柳陰★1
○『おくのほそ道』序章,平泉(李白序★4
□漢詩「春望★2」「黄鶴楼にて」
□四字熟語


△日本文学史 江戸時代・明治時代以降(『日本永代蔵』初午は乗って来る仕合はせ冒頭,『曽根崎心中』徳兵衛おはつ道行,『雨月物語』菊花の約「青々たる春の野」以下,蕪村・一茶)
△日本文学史年表
光村図書 ○いろは歌★4
○『竹取物語』冒頭,蓬莱の玉の枝,富士の山
□「矛盾」


△日本文学の流れ 近代〜現代(年表)
△文語の活用(活用表)
◎『枕草子』春は曙
○『平家物語』祇園精舎,那須の与一★6
○『徒然草』冒頭,仁和寺にある法師
□漢詩「春暁★5」「絶句」「黄鶴楼にて」


△日本文学の流れ 上代〜近世(年表)
△文語の活用(活用表)
○『古今集』仮名序
○三大集(柳陰★1),
○『おくのほそ道』序章,平泉(行秋★3
□『論語』


△俳句,『史記』
△日本文学の流れ (全,年表)
△文語の活用(活用表)
三 省 堂 ○『竹取物語』冒頭,不死の薬・昇天
□「矛盾」


△「かるたの世界」(写真)
○『平家物語』祇園精舎,敦盛の最期★6
□漢詩「春暁★5」「黄鶴楼にて」「春望★2
◎『枕草子』春は曙,うつくしきもの
○『徒然草』冒頭,仁和寺にある法師


△狂言「柿山伏」
○三大集(柳陰★1
○『おくのほそ道』序章,平泉(行春・行秋★3),蕪村・一茶も


△「古典文学をたずねて」(写真)
△『論語』
学校図書 ○古典文学解説導入文(『徒然草』を含む)
○『竹取物語』冒頭,天人到来,天の羽衣
□故事成語「矛盾」「五十歩百歩」
○『宇治拾遺物語』


△日本文学の流れ(年表)
○『平家物語』祇園精舎,敦盛の最期★6
□『論語』
○『徒然草』冒頭,高名の木登り,猫また


△日本文学の流れ(年表)
△発展=日本文学史年表
○三大集
□漢詩「春望★2」「元二の」「静夜思」
○『おくのほそ道』序章,平泉(行春・行秋★3
◎『枕草子』春は曙,うつくしきもの,香炉峰の雪


△日本文学の流れ(年表)



●『竹取物語』→1年生,『平家物語』『徒然草』→2年生,三大集と『おくのほそ道』→3年生は,5社とも共通。◎を付した『枕草子』は,2年生以外に1年生(東京書籍)と3年生(学校図書)があり,全学年にわたる。但し,どの学年であっても,初段「春は曙」が取り上げられている。

●漢文は,全社が1年生に故事成語の「矛盾」(『韓非子』)を載せ,その後は『論語』2年生・漢詩3年生もしくはその逆。具体的な詩としては,杜甫の「春望」が光村図書以外全社に,李白の「黄鶴楼にて」が学校図書以外全社に見られるので,ほぼ定番と言える。

●限られた本文しか取り上げられないのであれば,それらの間に有機的なつながりがあったほうがよいのではないか。その意味で,★印の教材が注目され,評価できるだろう。詳しい説明は,前記拙稿を参照されたい。


★1=  『新古今集』の例歌には,西行の「道の辺に清水流るる柳陰しばしとてこそ立ち止まりつれ」(巻3・夏歌・262・題知らず)を採り,『おくのほそ道』には,それに基づく「田一枚植て立去ル柳かな」の句だけでも旅程図などに載せ,解釈するほうがよいのではないか。
 知られるように,「古人」の一人でもある西行の歌は,教材の範囲に限っても,他に「待ち出でて隈無き宵の見れば雲ぞ心にまづかかりける」(『山家集』上・秋・月歌あまたよみけるに・338)や,「今ぞ知る二見の浦のを貝合とておほふなりけり」(同・下・雑・1386・詞書略)など,『おくのほそ道』と関係が深い。

★2=  杜甫の律詩「春望」は,『おくのほそ道』平泉の脚注に掲げるだけでは不十分ではないか。
 また,「春望」の頷聯の訓読は,「時に感じては花も涙を濺ぎ,別れを恨んでは鳥も心を驚かす」に従いたい。そう訓むと,「行春や鳥啼魚の目ハ泪」との対応や,ずれもわかりやすくなる。「時(時世)」と「別れ」に対して「花」が涙し「鳥」が啼く。→「時(時節)」と「別れ」に対して「鳥」が啼き「魚」が涙する。
 なお,平泉の前半だけ掲載する場合,曾良の句を省いてしまうと,種々の工夫がわからなくなる。両句の「青」と「白」の色彩の対比もその一つ。五行思想を踏まえたこの対比は,『おくのほそ道』に散見するが,最も有名なのが「桃青」と「李白」の関係。

★3=  『おくのほそ道』では,旅の最初の「行春や 啼魚の目ハ泪」と,最後の「蛤のふたみに別行秋ぞ」の両句を,句だけでも共に旅程図に掲げ,構成を含めて取り上げておくほうがよいのではないか。学校図書の教科書は,★の数だけをいうと少ないが,この両句の関係を丁寧に取り上げるなど,評価すべき点が少なくない。

★4=  『平家物語』や『おくのほそ道』の序章の理解のためにも,「いろは歌」の掲載は意味がある。他にも『論語』子罕篇の「川上の嘆」など,「諸行無常」を表現した例文を取り上げるほうがよいのではないか。

★5=  孟浩然の絶句「春暁」は,詩歌における春(惜春)の景物「花鳥」(落花と啼鳥)が詠まれている点でも取り上げる意義がある。なお,教育出版と東京書籍が三大集の例歌に「落花」の歌を一首も挙げていないのはいかがか。但し,前者は1年生の付録に『百人一首』がある。

★6=  『平家物語』の義経の活躍を読んでおくと,『おくのほそ道』平泉を読む際の感慨が深くなる。

★7=  『徒然草』のこの段が掲載されていれば,『枕草子』「つとめての降りたるは言ふべきにもあらず」の復習ができる。「あさぼらけ有明の月と見るまでに吉野の里に降れる白雪」(『古今集』巻6・歌・332・詞書略・坂上是則)も,『古今集』歌の例に挙げた教科書は無いが,『百人一首』によって比較的よく知られている。なお,他社は『徒然草』から季節感に関わる段を取り上げていない。


●参考=『中学校学習指導要領』国語「第3 指導計画の作成と内容の取扱い」1の(4),「読むこと」の指導に関する留意点のイ以下(下線引用者)


イ 古典の指導については,古典としての古文や漢文を理解する基礎を養い古典に親しむ態度を育てるとともに,我が国の文化や伝統について関心を深めるようにすること。その教材としては,古典に関心をもたせるように書いた文章,易しい文語文や格言・故事成語,親しみやすい古典の文章などを生徒の発達段階に即して適宜用いるようにすること。なお,指導に当たっては,音読などを通して文章の内容や優れた表現を味わうことができるようにし,文語における言葉のきまりについては,細部にわたることなく,教材に即して必要な範囲の指導にとどめること。

文学作品などの成立年代やその特徴などに触れる場合には,通史的に扱うことはしないこと

エ 指導に当たっては,例えば次のような言語活動を通して行うこと。
(ア)  様々な文章を比較して読んだり,調べるために読んだりすること。
(イ)  目的や必要に応じて音読や朗読をすること。

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